弟子ものがたり・番外、心霊編 (坂根龍我 作品 紹介№235)
(こういう話しは今回のみです <(_ _)> )
弟子に入って3年が経った頃、友人が若くして結婚をした。
学生の頃、バンドを通じて知り合った友人だった。
少し思い込みの強いトコロがある人間だったが、楽しい奴だった。
彼ら2人が新居に選んだのは、とある場所のアパートだった。
居間兼寝室になるひと部屋に、キッチン、バス、トイレといった手頃ながらも新居には相応しい2階部屋だった。
周りにそんなに早く結婚した友人がいなかったので、チョイチョイ冷やかしがてらに遊びに出向いていたのだが、
僕もそれなりに忙しくなり始めたため、少しづつ足は遠退いていった。
そんなある夏の日に彼から電話がかかって来た。
あ、坂根?
俺〜。
元気にしてる?
あのな・・・実は、ちょっと相談したい事があって・・・。
彼の話しでは、あのアパートに入ってからと言うもの、ろくな事がないと言う。
奥さんが体調を崩し、仕事もうまくいかなくなって、彼まで最近体調が優れないと言う。
オマケに夜中の2時過ぎ頃になると、
奥さんの眼が覚め、キッチンに何かいる、怖い!と毎晩のように訴えるので、自分も睡眠不足で困っている。との事だった。
でな、ヨメがいくら怖い言うても俺には何もわからん。
お前、一回泊まりに来て確かめてくれや。、、、 頼むわ。
・・・え?・・・い、いや、今、俺も忙しいし・・・怖いのイヤだし・・・
と心の中では言っていたのだが、口を突いて出たのは・・
あぁ、わかった。
そしたら来週の土曜日、仕事終わってから行くわ。、、、だった。
何て事言ったんだ!は後の祭り。
断りの電話を入れるか入れまいか、考えあぐねて1週間が過ぎた。
何と言っても友人の頼みである。
腹を括った土曜日。
酒と少しのツマミを持って友人宅へ。
持ってきた酒を飲み、肴をつまみ、他愛のない話しに花が咲く。
何て事はない。
何もおかしな気配は感じない。
もっとも、自分にそんな特殊な能力がある訳じゃないのだが。
やがて、夜も深くなり休む事になった。
部屋を片付け、キッチンに近い方から友人の奥さん、友人、僕の順に布団を敷き、眠りについた。
酒の酔いも手伝ってか、僕は深く眠ってしまった。
・・・おい・・おい・おい・・!
友人の押し殺した声と揺さぶりに目を覚ました。
おい・・・ヨメさんが、言い出した。
聞こえるらしい。
・・・何かいるって言うとる。
・・・・ん・・
キッチンに目を向ける。
!ん⁈‼︎
キッチンの違い戸のデザインガラス越しに何かが見える。
丸いような影がゴロゴロと左右に転がり、その度に長い尻尾のようなモノがピシャリと床を打つ音がかすかに聞こえる。
ちょうど缶ビールを床に転がすような音だった。
小声で友人にたずねてみた。
お前、あれ、見えないの?
・・・ん
音は?聞こえない?
・・・ん
若い奥さんは部屋の隅に身を縮めるようにして怯えている。
それでもまだ僕は何かの小動物が入り込んで、棲み着いているのではと思っていた。
よし、開けてみるわ。
僕は壁づたいにキッチンの違い戸までソロソロと近づいていった。
丸いモノはまだ転がり続けている。
・・・ゴロゴロ・・ピシャリ・・ゴロゴロ・・ピシャリ・・・
そして、向こうからこちらへ転がってくる影の動きを見計らって僕は違い戸を思い切り開けた!
ゴロゴロ・・ゴロゴロ・・
座ったままの僕の膝元に転がってきたモノは・・・・
人間の生首だった!
土気色の皮膚の色、開いた口から赤い舌をダラリと垂らし、
カッと見開いた両目は白濁してどこに焦点が合っているのかわからない。
長い尻尾のように見えていたのは、ざんばらに伸びた少ない髪だった。
ピシャリと床を打っていたのはこのざんばら髪だったのだ!
うわーーーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
その瞬間!
バチッという音(がしたように僕は感じた)とともに生首は弾けるように消え、生臭い嫌な臭いが漂った。
お、おい!
い、い、今の何や⁈
何やったんや⁈
灰色の変なモンが転がってきて、消えたぞ‼︎
く、臭いぞ!
な、何やったんや⁈
友人にも少し見えたようだし、臭いは伝わっているようだ。
腰が立たないとはよく言ったモノで、僕は全く動けなかった。
情けない顔の僕を友人が抱えて、布団まで引きずってくれた。
そこで僕は事の全てを友人に話した。
部屋中の明かりという明かりを全部着け、3人明け方までまんじりともできなかったのは言うまでもない。
トイレも3人一緒に行った。
日が昇ってから、友人が檀家になっている寺へ3人して赴き、住職に顛末を話し、お祓いをしていただいた。
友人夫婦はその後直ぐに別の場所へ引っ越し、彼も奥さんも体調が嘘のように良くなった。
また、仕事も順調に回るようになった。
僕の方も何事も無く、また、おかしな現象を感じたり見る事もなかった。
もう、かなり前の話しで、僕に特別な能力があった訳でもない。今もない。
お祓いをしていただいた御住職から聞かされたのだが、友人の住んでいた場所は昔の斬首刑場後だったという事だ。
しかし、お亡くなりになられ、未だお彷徨いになられておられる方々に言いたい!
いくら、恨み辛みがあろうとも、心残りがあろうとも、も少し出方を考えて欲しいものだ。
出来れば、真昼間、失礼しまぁ〜すのひと声かけてから賑やかにお囃子かなんぞに乗せて出て来て頂きたい!
そこが霊儀、いや、礼儀というものではなかろうか!と。
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