waca-jhi's diary

笑いも涙も浄化には大きい力になるといいます。そしてカルチャーショックは気付きの第一歩、たとえ小さくても感動は行動への第一歩。

弟子ものがたり (坂根龍我 作品 紹介№241)

彦根市の漆工芸家、坂根さんの作品を楽しみましょう】 

 

 

《【尻とコーヒー】都合により写真掲載はありません (^_−)−☆》

 

僕が弟子入りして 数年の後、師匠はアトリエだけを別の場所に移した。

京都市の北の端。

二階建て一軒家だった。

ここに移ってからの思い出は限りなく多い。

弟弟子がたくさん出来たのも、ここに移ってからの事だった。

弟子の仕事のひとつに、お得意先がお見えの際、コーヒーを淹れてお出しするというものがあった。

面白いもので、それぞれの弟子によってコーヒーの味も違ってくる。

皆、それなりに淹れる腕が上がってくると、お得意先の中には淹れる弟子を指名される方などもおられるようになって来て、さながら喫茶・蒔絵工房のようだった。

メニュー作って金取るか!などと不埒な事を言い出す弟子なんかもいたりして。

あ、僕ではない。

コーヒー好きの師匠に感化され、弟子達もみんなコーヒー好きになったのだが、何せアトリエは京都市の北のはずれ、周りは田んぼと畑しかない。

洒落たカフェや喫茶店など探すまでもない。

ある朝、師匠が少し弾んだ声で言った。

賀茂川沿いに、今何か建てとるぞ。

白い建て物で、喫茶店らしいぞ。

ホントですか⁈

この辺りにもやっとかなぁ。

美味いコーヒー飲めるといいですねー!

師匠を始め、弟子も皆一様に期待した。

特に弟子どもは喜んだ!

美味いコーヒーを飲ませるところが近くに出来たとなると、ひょっとしてお得意先がおいでになっても、そちらで 話しを!なんて事に成りかねない!

そうすると、必然的に美味いコーヒーを淹れるという緊張から解放される訳である。

また、コーヒー好きの師匠である。

おい、コーヒー飲みに行くぞ!

なんて嬉しい事にもなるやもしれない!

半月程経った朝に師匠が言った。

おい!もう建ってるぞ! 営業しとる!

しかしなぁ、凄い車の数や・・。

チョットすぐには入れん。

道にまで並んどる!

開店早々ですからね〜。

しばらくは多いでしょうね。

兄弟子が応えた。

少し落ち着いた頃にみんなで繰り出そう!

との師匠の言葉に、皆喜んだのは言うまでもない。

しかしその喫茶店、それから1週間経っても10日経っても、更に半月を過ぎても、これが一向に盛況ぶりが収まらない。

いや、それどころか駐車場から溢れる車の量が増えているではないか!

これは余程凄いコーヒーが置いてあるに違いない!

いや!珈琲と書くべきか。

きっと僕達の知らない、天国のような味のする珈琲があるのだろう!

という結論に至った我々は

よし!もう今日行くぞ!

の師匠の言葉に決起した。

たかが喫茶店にとお思いかもしれないが、あの車の列に入って並ぶ訳である!

忙しい毎日の中の時間を割く訳である!

これはもう決起なのである!!

かくして車列の人となった我々は、もうワクワクドキドキが止まらない。

悪魔のように黒く、地獄のように熱く、

天使のように純粋で愛のように甘い!

正に魅惑の珈琲の味に想像は膨らむばかりであった!

1時間半程待って、車は駐車場に入る事ができた。

お客様、5名様ですね!こちらへどうぞ!

と黒服の男に案内され、席へと着いたのだが・・・。

何か店の雰囲気が違う。

どこかオカシイ。

気付いた!

客がみんな男なのだ!

男だけなのだ!

しかも、テーブルがやけに低い。

更にウェイトレスが・・・。

素肌にスケスケのシャツ!

透けて・・・

見えてるーーーーーーーー⁈⁈⁈

ギリギリのヒラヒラミニスカート!

コーヒー運ぶと尻が丸見え!

・・・で、履いていない・・。

履いていないーーーーーー⁈⁈⁈⁈

師匠を始め一同の目が点になる

何だ!ここは⁈

何なんだ‼︎

京都市の北の端、田んぼと畑に囲まれた田舎だ!

しかも真っ昼間だぞ!

やがて、無表情のウェイトレスが注文を聞きに来る。

男たるモノ、いかなる場合に於いても初志貫徹である!

みなホットコーヒーを注文した。

ホット5つですね〜、かしこまりましたぁ〜。

と軽く会釈する。

・・・横尻丸見えである。

隣の席の4人連れがニヤけて眺めている。

彼らには正面尻になる。

まもなく運ばれてきたコーヒーは、悪魔のように不味く、地獄のように喉に絡み、ひねくれた天使が語る愛のように冷めていた。

・・無理するな・・腹壊す・・

の師匠のお言葉に従い、みな3口程を口にし、残したまま帰る事となった。

弟子は疲れ果てただけで済んだが、支払いまでした師匠は1日中不機嫌だった。

後日、仕事場にお越しにたなったお得意先が、来られるや否や息急き切ったように尋ねられた。

何か、エエ喫茶店が出来たそうですな‼︎

( あ、顔がニヤけている・・。)

今日はご同行出来たらと!

( 鼻の下が伸びている・・。 完全にご存知だなこりゃ・・・。)

申し訳ないです。

今日はあいにく仕事の手が空きません。

( ・・・だよな♪)

え?そんなぁ。

ちょっとだけ、どうです?

いや、ホントに無理なんです。

え〜、やっと来れたのに〜・・。

( ・・・ムリだって!)


坂根君!

師匠にいきなり呼ばれた。

はい。

ご同行差し上げて。

・・・は⁇⁇‼︎

(えぇえぇぇーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎)

お!お弟子さんがご同行くださる⁈

いやいや、ありがとうございます!

( 師匠・・・・マジですか⁈)

かくして僕は再び車列の人となった。

いやぁ!話しには聞いてましてね!

いっぺんはどんなモノかと、覗いてみたかったんですわ〜。

・・あ、はい・・。

行かれたんでしょ⁈

で、どうでした⁇🎶

どうでしたもクソもない。

・・・はぁ、そうですね〜。

スケスケのヒラヒラで丸見え・・です・・。

ほぉーー‼︎

何となぁぁー‼︎‼︎

いやいや、感動するような事じゃ・・。

見たくて行った訳じゃない。

飲みたくて行っただけであって、間違って行ってしまっただけである。

ましてや興味も何もない女性の尻をこれ見よがしに見せられても困るのである。

あんなモノは、興味惹かれる女性がこちらにも興味を持ってくれた上で、素敵な時間の中で、そっと垣間見えて嬉しいモノであって、ドカンと目の前で、どうだコノヤロウ!尻だぞ!コーヒー飲め!金払え!は無いのである。

強制エロはエロとは言えないのである。

が、お得意先には喜んでいただけたようだった。

いやいや、面白いモノを見せて貰いましたわ!

と、お帰りになられた。

その日の帰り際。

・・・坂根君。

はい。

スマンかったな。

また、埋め合わせするわな。

・・はい、ありがとうございます。

後日、師匠より

ほい、埋め合わせ。

と筆を1本いただいた。

僕はこれを〝ノーパン根朱替(ねじがわり)筆〝と名付け、その後大切に使わせていただいた。

それから件の喫茶店は、盛況の元に店を閉め、我々のアトリエはノーパン喫茶発祥の地という名所とともに、それぞれの記憶に残る事となったのである。

昭和という面白い時代の話しである。

                   

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