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waca-jhi's diary

笑いも涙も浄化には大きい力になるといいます。そしてカルチャーショックは気付きの第一歩、たとえ小さくても感動は行動への第一歩。

弟子ものがたり (坂根龍我 作品 紹介№227)

彦根市の漆の工芸家、坂根さんの作品を楽しみましょう】 

 

《過去の投稿に少し手を加えて》

弟子入り早々の頃の給金と言うものは、とても低い。

仕事場の掃除以外、教えて頂く一方なのだから当たり前なのだ。

当時僕は、自宅から電車とバスを乗り継いで通っていた。

その通いの定期券を買い、場末の居酒屋で一杯やると無くなってしまう額だったと考えていただけると、おおよその見当がつくというものだろう。

もちろん、仕事を覚え、腕の上がり具合によって給金もあげていただけたので、独立の頃には一端の「給料」を頂いていた。

弟子入り1年経った頃、3月も終わろうとしていた時分だった。

定期券代を少しでも節約しようと思い、また生来の放浪癖も手伝ってか、友人の下宿屋に居候を決め込んでいた時期があった。

一部屋四畳半で、一畳に満たない、台所と称する流し、風呂無し、共同トイレで下3部屋、上3部屋のボロアパート。

そこに5円を投入すると動く洗濯機が置いてあった。

ある日洗濯物をしこたま溜め込んだ僕らは、5円の金を惜しんだ。

そこで・・・

深夜加茂川に洗濯に行く事に相談がまとまり、

ゴミ袋3杯の洗濯物を持って、人通りも少なくなった頃を見計らい、加茂川へと向かったのである。

加茂川には 加茂川アベックの法則 という暗黙のルールが敷かれており、

カップルはそれぞれの話し声が届かない距離をとって、川辺に座りイチャつくという決まりがあった。

そこへ深夜、タバコを咥えた男2人が、ゴミ袋3杯の洗濯物を持って割り込んで行った訳で。

この無謀な行為は、大いにカップル達の恐怖を煽ったと見られ、

2人だけの世界に浸っていた者は、男が女をかばうように、はたまた、これから何処かへシケコム前にちょっとだけ・・・

なんて不届き者は慌てて身繕いをして、皆一様にテロにでも会ったかのような勢いで逃げて行ってしまった。

しかし、そこから本当の恐怖に包まれたのは僕達の方だったのだ。

静かになったのをこれ幸いに加茂川まで降り、やおら洗濯を始め、 おぉー!水が冷たいっ! などと話していた時!

春のまだ冷たき水に指がジーンとして来た時!!まさに僕が3枚目のパンツを洗おうとしていたその時!!!

ザバーッ!という大きな水の音と共に、真っ黒で大きな影が加茂川の中腹からヌックと立ったのだ!

自分達の前に今何が起きているのか、全く理解出来ずに僕達は固まってしまった。

「おいっ!」

「・・・・・・・・・・・・・えっ?」

「そこのお前らっ!」

「・・・・・えぇえぇぇぇーーっ?!!」

得体の知れない真っ黒な影が言葉を発したのである!

しかも日本語!まして関西弁!

「腰を抜かす 」を始めて経験した僕達は、それでも目を凝らして相手を確かめた。

ヒ・・ト・・だった。

当時まだ珍しいウェットスーツに、手にはさぞ高性能であろうとおぼしき黒の双眼鏡を提げていた。

彼は続けた。

「お前らそこで何しとんじゃ!

お前らがゴチャゴチャやるさかい、アベック、皆おらんようになったやんけっ‼︎」

真っ白になった頭を戻し戻し聞くところによると、何と彼はノゾキのプロだと言う。(覗きの何を称してプロと呼ぶのかは解らないが・・)

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完全装備で浅い加茂川の中に寝そべる様に潜み、双眼鏡で「これっ!」というカップルを覗いて愉しむのだと言う事だった。

僕達がその「プロ」の邪魔をしてしまった事に、彼は大層御立腹だったのだ。

深夜、加茂川の中に立つノゾキのプロと、深夜、加茂川で洗濯をしていた男達の自己紹介の末、めでたく手打ちとなり、僕達2人はノゾキのプロに屋台でおでんをご馳走になった。

彼はその真っ黒なウェットスーツ姿のまま屋台の暖簾をくぐり、

「あ、オッチャン、オデン見繕いで3人前!後、酒三つ!」と言いながら椅子に座り、僕達にも座れと促した。

「ほい!オデン三つに酒三つ!」

屋台のオヤジも慣れてるようで・・・。

僕達が加茂川で洗濯などという、一見無謀とも言える行為に至った経緯を、さかのぼってひと通り説明すると

「ほうか、苦学生と職人見習いっちゅう事か。

お前ら、今日びのモンやないゾ。

しかし、頑張っとるんやな!

ええか、⚪️⚪️時から⚪️⚪️時まで、俺は、ほぼ、毎日!加茂川の中におる!

いつでも困ったら加茂川に来い。おでん食わしたるさかい!」

と、僕の背中をバンバンと叩きながら彼は言った。

帰り際、彼は 「2人共負けるなよ!」 と言い、僕達に土産のおでんを持たせてくれ、再び、颯爽と夜の加茂川に消えて行った。

僕達はそれから2度と加茂川に洗濯に行かなかったし、行きたくなかった。

本能が「行くな!」と命じていた。

その後暫くして、給金も少し上がり、色々あって僕は居候をやめ、友人もめでたく卒業となり、郷里の四国へと帰って行ったため、ノゾキのプロの消息は全く不明である。

今思うと若さゆえのプライドが加茂川から足を遠ざけたのだが、

もしあの後も「 オッチャン、腹減った! 」と言って加茂川に行っていたらどんな展開があったのだろうか。

今となっては全てが青春の笑い話になってしまうが、とても懐かしく思い出す、夢のような出来事だった。

京都の加茂川近くにも、まだ屋台が出ていた頃の話し。

面白い時代だったんだろうな。

                             

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