僕は 夏が苦手である (坂根龍我 作品 紹介№294 )
むせるような草の匂い
少し焦げたような土の香り
空には薄墨色の雲がモクモクと立ち昇り
風は少し水気を孕んで雨の匂いが鼻をくすぐる
そんな時 胸が優しく締め付けられて
悲しいほどに懐かしくなるのだ
何気無い夏の風景に
幼い日が遠く遥かな時の向こうから
少し目を細めてやって来ては
鮮やかな思い出を僕に観せていく
鉄の風鈴がチリリと鳴って
子供達の声が遠ざかり
蝉の声がピタリと止むと
地べたを激しく打つ 逞しい音を引き連れて 夕立が走って来る
薄暗くなった部屋の涼しさ
友達の笑い声
母の煮物の匂い
父が湯呑みを机に置く音
祖母の優しい手
兄のクレヨン画の匂い
姉のスカートの色
しんちゃん!
おかぁちゃん!
おとうちゃん!
おばぁちゃん!
おにぃちゃん!
おねぇちゃん!
今にも さわれそうで 思わず手を伸ばして思い出の中の 優しい人達に触れようとする
でも 僕の心は虚空を掴み 今の夏が現在(いま)を見せているだけ
僕はまた独りに戻る
夏の日の夕方
子供のように甘えたくなってしまう自分を
誰かに許して貰いたくなる
僕は夏が苦手である
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