『鬼とロックとコーラ瓶〜流血の白塗り事件』-1(~2) (坂根龍我 作品 紹介№359 )
小学五年生の頃、父が僕に弾かせようと質流れのクラシックギターを教則本と共に買って来てくれた。
おそらくはボケーっと日々過ごしているか、とんでもないイタズラをやらかす僕に業を煮やしての事だったのだろうと思うのだが・・・。
しかして僕は初めこそ興味を惹かれたが、教則本のサクラサクラや埴生の宿などにすぐ飽きてしまった。
あーー、かったりィ!
が本音でギターは昼寝用の枕と化してしまったのだ。
そんな調子のまま六年生を過ごし、中学に上がった頃、友人が「歌本」なるものを見せてくれたのである。
ふぅ〜ん、今流行ってる曲が載ってんだ。 ・・・な、これ何?
楽譜の上に書いてあるアルファベット
・・エーエム?
・・・イーエム?
何や知らんのか。
これがギターのコードや。
ほら指で押さえる場所が書いてあるやろ。
この通り弾くと和音が鳴って歌えるんよ。
‼️‼️‼️
マジか⁉️
ここで僕は家にある枕、いやギターの存在を思い出したのである!
な、この本1日貸してくれ! 頼む!
かくして僕はその「歌本」なるもののコード表を宿題そっちのけで写し取り、ついでに歌える歌も写し取り、日々ガチャガチャギターと格闘する事となったのである。
クラシックのポロロン、ポロロンピレリロリ♩・・・、では無くあくまでガチャガチャ!ジャカジャカ!🎶だったのである。
天才とはかくもそういった存在なのであろうが、弾いているうちに知らず知らずコードを覚え、弾き方を工夫し、幾つか弾ける曲も出来てきた。
(あくまでローコードのみ。しかし、昭和の名曲達はこのローコードのみの世界から生まれたと言っても過言ではない)
ギターが日々の相棒となり、高校へと上がった頃にはそれなりに格好もついてきた。
こうなると誰かと組んでやってみたくなるのである。
当時僕が魅了されたのはサイモン&ガーファンクルだった。
澄んだ歌声、美しいハーモニー!
これこそやってみたいバンドだったのである!
しかし一緒に組む人間をどうやって探したらいいものやらわからなかった僕は、友人知人に手当たり次第に誰か組んでくれる者はないかと声をかけていた。
ある日の放課後、クラスの友人が声をかけて来た。
あのさ、お前誰かとバンドやりたいんやてなぁ?
歌、うたえるか?
歌える!
ギター、そこそこ弾けるよな。
うん、弾けるよ!
あのな、主に歌える人間探してる奴がいるんやけど、お前どうや? やってみる?
やた!!
サイモン&ガーファンクルが出来る!
ハーモニーが!
澄んだ歌声が!
やるやる!
そうか!
そしたらな早速今度の日曜日、ここへ行って相手に逢うてやってや。 話しは通しとくし!
何でも5人編成のバンドやったんやけど、1人抜けて探してるんやて。
と連絡先の書いた1枚の簡単な地図を渡された。
わかった!
必ず行くから!
はたして日曜日!
僕は踊る心を抑えつつ、目的地へと向かった。
途中の電車の中でも、人数がいればハーモニーも結構深いだろうなぁ などと考えつつ、もうワクワクがとまらなかったのである。
その場所は京都の繁華街から少し路地に入った地下にあった。
階段を降りる途中の壁には色々なバンドの貼り紙が、狭しと貼ってあった。
ふぅ〜ん、ロック系のハウスなのかな・・。
などと呑気に眺めながら下へと降りて行った。
階段を降りたすぐ隣りに古いが頑丈そうなドアがあり、そこが友人から教えられた目的地だった。
貼り付けられたライブハウス名を眺めながら、1つ深呼吸をしてドアを押した。
失礼しまぁ〜す・・
あの、友人から聞い・・・て・・・・え?・・・
開けた扉の向こうにはかなり衝撃的な世界が僕を待ち受けていたのである。
長い金髪を頭の上で縛り、アンタそれ枚方パークの噴水ですか?と訪ねたくなる鬼。
銀髪を片方だけ立てて、アンタは妖怪針を飛ばす瞬間の鬼太郎ですか?とツッコミたくなる程片方は目が隠れるくらいに垂らした鬼。
それはアンタ歌舞伎の連獅子やろと簡単にツッコミ入れそうになった真っ赤な髪の鬼。
スキンヘッドに思い切り真っ黒な髭を伸ばした鬼に関しては逆さ絵か!!と訪ねたくなった。
その鬼達が真っ黒な上下皮の服装で一斉に僕を睨んだのである!
・・・あぁ?・・誰やお前・・・
舐めるように下から上まで僕を見た噴水が口を開いた。
・・・あ、い、いや・・僕・・・・し、し、失礼しました!
慌ててドアを閉めようとした僕に今度は連獅子が言った。
あ、あ、ちょっと待てや!
お前、あれやろ?
○○(友人名)から紹介された・・えと・・さか・・さか・・さかねや!
な!そやろ?
・・・あ・・・はい・・
あ、でも!・・
とお暇の言葉を選んでいるうちに逆さ絵が低い声で僕に言った。
おい、遠慮すな!
早よこっち来んかい!
ひゃいっ!(はいっ!)
恐る恐る近づいた僕に銀髪鬼太郎が言った。
ちょっと脱いで。
・・は⁈
上半身脱いで。
・・・は・・い?・・
戸惑う僕に間髪入れず逆さ絵が口を開く。
脱げ言うとるやろ!
ひゃ、ひゃいっ!
嗚呼、父よ母よ飼い犬よ、これから俺は鬼の餌食になって還らぬ運命を辿るとも、みな幸せに暮らしてくれ・・
シャツのボタンを外しながら、ふと鬼ヶ島に向った桃太郎はこんな気分だったのだろうかと考えた。
おお!細っそいけどマァマァの体つきやないか!
これやったらイケルな!
僕の肩や胸をパンパンと叩きながら連獅子が言った。
・・・?・・・え?・・・
今度は噴水が僕の顔を覗き込むようにして言った。
顔もマァ、塗ったらなんとかなるやろ!
・・・は?・・・塗・・る・・って?・・は?
噴水が続けて言った。
ところでお前、幾つ?
あ、高校生やったな!
ほなタバコ吸えるな。
とーぜん酒も飲めるわな。
ちょ、タバコと酒で声潰しといて。
は?・・・はぁーーーーーーっ⁉️⁉️
ここで我に帰った!
な!出来るわけないっしょ‼︎
吸いませんし飲めません‼︎
だいたい僕がやりたいバンドはサイモ・・
と言いかけたところに咥えタバコの連獅子が水彩絵の具の筆洗のようなモノを持ち、片手にハケを握りしめて言った。
ま、とりあえず塗ろ。
・・・・・・・・・・・・⁉️
かくして僕の顔と上半身は真っ白に塗られ、目の周りは十字に黒く縁取られ唇も黒く塗りつぶされた。
そして (続く)
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