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waca-jhi's diary

笑いも涙も浄化には大きい力になるといいます。そしてカルチャーショックは気付きの第一歩、たとえ小さくても感動は行動への第一歩。

弟子ものがたり (坂根龍我 作品 紹介№239)

彦根市の漆工芸家、坂根さんの作品を楽しみましょう】

 

蒔絵というのは、漆で絵を描き、その上から金銀粉や他の金属粉を蒔いて表現するため【蒔絵】と呼ばれるのである。

この蒔絵、1度描いてしまえば失敗は許されないと皆さんに思われているが、そうでもないのである。

もちろん失敗の許されない工程の絵もあるが、大体は修正がきく。

金銀粉を蒔く前の段階なら楽に消す事が出来る。

金銀粉を蒔いてしまった後ならば、かなりの後ろめたさは残れども、勿体無さと我が懐具合に目をつむりさえすれば、消す事が出来る。

しかし、金銀粉を蒔き、漆で固め、更に磨きまで行ってしまってからの修正は出来ない!・とされている・・のだが・・。

・・・やってしまった・・・。

その日僕は、心底参っていた。

磨きまでかけた蒔絵の1部分に間違いが見つかったのだ。

描いてはいけない葉を1枚描いてしまっていた。

・・・どうしよう・・・

決心した。

こっそりとってしまおう!

用意したのは彫刻刀、所謂切り出し刀と呼ばれる先が斜めになっている刀。

この刃を砥石で研いで切れなくする。

さらに切っ先も研いで、やや丸くする。

指先に当てて切れないくらいに刃が丸く感じればOK!

その刀に少し水を付けて、下の塗り部分を傷付けないように、絵の端の部分から引っ掻くように剥がしていく。

磨きまで行ったとは言え、時間的に考えれば蒔絵の漆はまだ本来の硬さ、強さには至っていない。

理論上では可能のはずだ。

師匠に気づかれないように、軽く深呼吸して気を集中させた。

絵の端に刀の先を当てた。

カリッカリッ、シュー・・っと端が剥がれた!

下の塗り部分は・・傷ついてない!

やた‼︎‼︎

いけるっ!

続けて剥がしていく。

慎重にかつ冷静に任務を遂行しなければ、師匠に見つかってしまう!

気分はもう、腕利きのスパイのようである。

今で言えばミッション・インポッシブルのイーサン・ハント事、トム・クルーズなのである!

カリッシュー・・

カリッカリッシュー・・

かなり調子がいいじゃないか!

そして、最後のひと搔き。

シューッ

終わった。 塗面も無事!

後は少し磨いて、なに食わぬ顔をしていればバレずにすむ!

お陰でその商品は次の行程へと移り、無事納品された。

その後、たまに弟弟子の簡単な失敗の修正や、絵の修正などもこれでやっていた。

ある日の事。

あっ!イカン!

やってもた・・・。

と言う師匠の声に、皆が驚いて顔をあげると、飾り箪笥の、引きちがい戸を持った師匠が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

・・・どうしたんですか?・・

兄弟子が心配そうに訊ねた。

あぁ、戸の裏表間違うて絵、描いてしもた・・・。

え⁈

磨きまで終わってるんですよね・・。

どうしたら・・・研ぎ落として、塗り直す以外・・。

師匠は残念なちがい戸をしばらく眺めて、顔をあげると、僕に言った。

坂根君、これ全部とってくれるか。

切れん彫刻刀で。

名人やろ?

は⁈・・・あ、はい・・・えっ⁈

バレていた。

道具まで。

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全てお見通しだった。

イーサン・ハントもへったくれもない。

頼むわ、今日中に全部取ってくれるか。

は、はい!
・・・あ、あの〜・・・。

ん?いつから知ってたかてか?

そんなもん、最初から知ってるわな。

なかなか上手い事やりおるなぁとな。

しかし、ま、これに頼らんと、間違いなく描く腕に修行が先決やけどな。

とにかく、これやっつけといてくれ。

はい!申し訳ありませんでした!
解りました!

・・・こわ・・・・

僕はその日1日中、見事に描かれた残念な蒔絵をカリカリシューシューと、取り去る仕事に従事した。

だいたい35cm✖︎25cm程あった板だったと記憶しているが、それに全面に描かれた蒔絵を取り去る事は流石に神経をすり減らした。

全て取り去る事ができたのは終了時間間際だった。

先生、出来ました・・・。

お!終わったか!

ほぉ、キレイなもんやなー。

これなら大丈夫や!

よー頑張ってくれたな。

はい。

ま、しかし、これからこれで手直しするのは、よっぽどの時にせぃよ。

・・・・はい。

ふらふらだった。

師匠の目って、横にも後ろにもあるのか・・と思い知らされた出来事だった。

現在、僕にも仕事を覚えたいと来てくれている大切な、弟子と呼べる人間がいる。

一生懸命に精進する姿はかわいいものだ。

そして不思議なものである、自分の横にも後ろにも目が出来ている。

おぉ、やっとるなー。と眺めながら、どのように指導すればいいかが見えてくる。

今は思うようにやりなさい、そのうち君にも仕事が解ってくる。

などとイッチョマエな事を考えながら、自分の弟子時代に想いを馳せる日々である。

                             

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