弟子ものがたり・番外編 (坂根龍我 作品 紹介№238)
《弟子になるかなり前の話しである》
僕の初恋はおそかった。
15歳の時だったのだ。
これが誰に聞いても遅い。
皆、幼稚園だ、保育園だ、小学校の1年2年で済ませている。中には幼稚園の先生が相手だったなどという強者もいる。
遅い初恋はそれなりに重症で、寝ては夢、起きては現つ幻かの例えの通り、ひたすら頭の中の120パーセントがその人の事だった。
受験を控えた身にこれは結構辛い。
教師からは見透かされ、心配されて呼び出しへ。
親からはオカシクなったと大騒ぎされ、トチ狂ったオヤジは内科の医者に相談かけて笑われていた。
何せそれまで浮いた話しなんぞ、全くご縁が無かったのである。
その辺、鼻垂らして走り廻っていたガキだったのである。
確か、1度下級生にバレンタインデーに粋なチョコの詰め合わせを貰った事があったのだが、それの意味するところが解らなかった。
え?何でこのコほっぺた赤くしてんの?
チョコって・・・、何かのお礼か?
俺、何かしてあげたかなぁ・・・。
ま、くれるってんだから貰っとこう。てな具合で、家に帰ってオヤジと食べた。
翌日からその下級生は、僕とすれ違う時、頬を赤らめ、恥ずかしそうに足早に歩いて行った。
4日経つ頃には何故か少し悲しそうな目をむけられた。
1週間程経つと、どういう訳か軽く睨まれるようになった。
10日が経った頃にはあからさまにツンっとされた。
あ!そうか!貰ったチョコのお礼言って無かったからか!
合点がいった僕はお礼を言いに行こうとして同級生に止められた。
彼に噛んで含めるように事の説明を受けた僕は驚いた!それはもう驚いたのだ!
例えそれが、菓子屋の仕掛けた全世界的規模の陰謀だったとしてもだ。
世の中のイベントなんてクリスマスと正月位しか認識の無かったガキがイキナリ色気あるイベントに巻き込まれた訳である。
鼻垂れ小僧が初夜を迎えるようなモノである。
ママ助けて!である。
呆然としている僕に友人は告げた。
・・も、なんもするな。ひたすらホットケ。
余計ややこしくなるから・・・
卒業までお言葉に従った。
こんなガキが7つ年上の素敵な女性に恋をしたのである。
病いにならない訳がない。
お釈迦様でも草津の湯でも・・である。
閻魔様でも地獄の湯でも・・でもある。
1度だけ彼女とゆっくり会う事が出来た。
悩みに悩み、何度も電話の前を行ったり来たりしながらも意を決して映画に誘い、了承されたのだ!
何と!デートである!2人っきりなのである!逢引きなのである!
ガキの思い込みはお花畑だったのである。
僕が選んだ映画は、その名も「初恋」。
ツルゲーネフの小説を映画にしたモノだった。
何とか相手に自分の気持ちを伝えようとして選んだ映画だったのだが、
その内容たるや自分の初恋相手が自分の父親の愛人だったという身も蓋もないモノだった。
ガキの、韻を踏む、は所詮この程度で、題名からの浅はかな選択だったと後悔した。
この教訓から、この人!という女性をこの手の映画に誘う時は先ず原作を読むようにしている。
いや、モトイ!していた。
それでも、映画館の暗い中、隣りに恋心を向けた人が座っているという事実が僕の気分を高揚させた。
彼女の息づかいのひとつひとつ、姿勢を変える一挙手一投足までも、上映されているこの時間だけは自分が独占しているように感じ、
ただそれだけで嬉しかったし、肘掛けの上で腕が触れただけでも、胸が高なった。
やがて映画が終わり、夢見心地から覚めたが、映画の場面は全く記憶に無い。
その後、彼女がよく行くというとても素敵で雰囲気のいいカフェでお茶をして、食事を取り、ガキのデートは終わった。
覚えているのは、コーヒーの苦さとスパゲティー(当時パスタ類などとは呼ばなかった)の食べ辛さだった。
それから僕は、何とか受験を乗り越え、ロックにのめり込む日々となり、
酒、たばこ、◯◯◯解禁と怒濤のごとくその変化に翻弄される身となるのであるが、初恋の甘い想いは、
一緒に行った映画の半券と彼女からの3通の手紙と共に、宝物として部屋の片隅に残していた。
そして手紙の封筒が日に焼け、褪せて来た頃、素敵な歳上の女性は嫁いで行き、僕の初恋も終わったのである。
あれから再会の機会は全く無く、現在に至っている。
最近、たま〜に思う。
また歳上の素敵な女性に恋をして、失恋という想いを味わってみたいな。と。
貴方はまだ子供なの・・などと言われて、もう一度胸を痛めてみたいものだ。と。
叶ってはいけない、叶う事のない不届き千万なオッサンの夢である事は承知の上である。
しかして、我が身の年齢を思うに・・・。
この事だけを考え輪廻転生に想いを馳せる僕は、やはり不届き者なんだろうなぁ。
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