弟子ものがたり (坂根龍我 作品 紹介№237)
漆の業界と聞くと、皆さん一様に古い世界と連想される。
形式、格式を重んじ、あまり新しきを取り入れない。
確かにそんな部分もあるのだが。
師匠は、新しい道具を作ったり新しい素材を使用する事も名人だった。
ある時、大量の棗の注文が入った。
内を銀にして、表に蒔絵を施すもの。
しかし、この内銀というヤツが曲者で、綺麗に仕上げる為には、しっかりと中を研ぎ、塗りムラを消さなければならない。
仕上がりを考えると、弟子総出でかかっても時間的に厳しい。
そこで師匠はドリルと変圧器を使って、ロクロを作られた。
棗を挟む部分に特に注意を払ったとうかがったが、これは優れものだった!
ウィ〜ン、シャーッ!で研げるのだから、これはもう大幅な時間短縮になったのだ。
ただ難点は、僕達弟子にはとても師匠のように器用に扱えなかった事だった・・・。
特に僕のように不器用を絵に描いたようなヤツには・・・・。
かくして、ロクロ仕事は師匠の分野となり、その日は朝から仕事場にモーター音が響いていたのである。
僕達弟子はマメに手でシャコシャコと研いでいた。
ウィ〜ン、シャー!ウィ〜ン、シャー!
シャコシャコ、シャコシャコ
ウィ〜ン、シャー!ウィ〜ン、シャー!
シャコシャコ、シャコシャコ
ウィ〜ン、シャー!
ウィ〜ン、シャ・・・・
あっ‼︎‼︎‼︎
突然の師匠の声に、えっ!と頭を上げた時、僕の目の前をかすめるように棗が飛んで行った!
ズボッ‼︎
鈍い音を立てて、ウェスの山に棗が突き刺さった!
走り寄る師匠と兄弟子!
果たしてウェスの山の中で棗は傷一つ無く無事だった!
安堵の溜息の師匠が僕に言った。
坂根君、今度ワシの声が聞こえても頭上げんように。
被害はそこで止まる。
ま、今はウェスがあったから良かったけども・・・。
え⁈
・・・あ・・は、はい・・・・
兄弟子が吹き出した。
無傷の棗を手に自分の席に戻る師匠は、僕の後ろを通る時、ポンと僕の肩を叩いて行った。
あ、冗談かよ〜。
と思った時、また師匠が言った。
髪は伸ばしとき、クッションになるから
・・・え?
兄弟子がまた吹き出した。
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