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waca-jhi's diary

笑いも涙も浄化には大きい力になるといいます。そしてカルチャーショックは気付きの第一歩、たとえ小さくても感動は行動への第一歩。

弟子ものがたり番外編 (坂根龍我 作品 紹介№231)

彦根市の漆工芸家、坂根さんの文筆作品を楽しみましょう】

 

《過去の投稿に少し手を加えて リクエストにお応えして・・・》

 

まだ十代の頃、ロックバンドにそろそろ飽きが来てた時、アコースティックデュオを組む事が叶った。
京都の小さなライブハウス。
僕達が1週間に1度出演していたその店に「ねぇさん」も出演していたんだ。
1人でギターを抱えて、ゆったりと語り掛けるように歌う姿がとても印象的で、時折り見えるエクボの魅力もあり、「素敵なひとだな」と心惹かれたのを覚えている。

アマチュアであってもライブハウスで演奏する時は、あるプロダクションに所属する事を強いられた僕達は、顔立ちが甘いからと、当時流行りのカワイコチャン路線で売れというムチャな通達をされ、そういう髪型、そういう服装、そしてそういう曲を作らされ歌っていた。

相方はピタリとハマっていたのだが、齢い16にして酒、たばこ、⚪️⚪️⚪️解禁!髪振り乱してロックしていた僕にとって、それは地獄の拷問に等しかったのである。
閻魔様からラブレターを貰い、青鬼からの横恋慕の修羅場くらい辛かったのである。
ヘビメタ野郎の首根っこひっ捕まえて、保育園でお遊戯の唄を一生歌えと言っているようなものだったのである。

その日、1回目のライブを終えた僕は、2回目のライブまでの間出掛けて来るという相方を見送って1人で楽屋に残った。
カワイコチャンストレスで爆発寸前だった僕は、机に足を乗せ、髪を後ろに撫でつけて、楽譜ケースに忍ばせてあったポケットウィスキーをクイクイと飲みながら、ロングピースに火を着けた。

「あぁー、うめェー!」・・と天井に煙を吐き出し、至福に浸りかけた時、楽屋の扉が開いた。

「・・けむっ!」と言う声に聞き覚えがあり、顔を正面に向けると淡いブルーのワンピースを着た「ねぇさん」が立っていた。
「やべっ!」と思うも、時すでに遅し!
ちょっとの間、目を細めて僕を見ていた「ねぇさん」の目が見開かれて、見る見る丸くなる!
無理もない。
さっきまで🎶愛してるぅ〜🎶なんて歌っていたカワイコチャンの口にタバコ、片手にウィスキー、ふんぞり返って机に足!である。詐欺もいいところである。
取り敢えず、足だけは戻したものの他は隠せなかった。

「・・あなた・・確か高校生よね⁈」

「・・うぃっス・・」

「驚いた!・・これがあなたの実態ってわけェ〜⁈」

こうなってはもう仕方がない。
タバコを咥えたままではあったが、一応お愛想に、ニカッと笑ってピースサインを右手でそっと出してみた。

「もう!しょうがないわね。黙ってて貰いたい?」

腰に片手を当て、ちょっと小首を傾げて「ねぇさん」は訊いた。

「・・あ・・・はい・・」

ため息をひとつ吐いてから彼女は言った。

「了解。
ん〜、でも、ひとつ条件があるわ。
今夜、演奏が終わったら私に付き合いなさい。いい?それが条件。
じゃ、後でね!」

いたずらなエクボを見せて「ねぇさん」は楽屋を出て行った。

「・・は、い・・・・・・・えっ??!」

咥えタバコの灰が落ちて、ポケットウィスキーのキャップが机から転がり落ちた。
17歳と21歳の出逢いだった。

(こ、これは逆ナンか?!)
心惹かれたひとに誘われた訳である。
まして17歳の小僧、色気盛りである。
男は色気付いた時からずっとバカなのである。

気もそぞろなライブを終えて「ねぇさん」に連れて行かれたのは、当然のごとく、何て事はない居酒屋だった。

その店で僕達は飲みながら色んな話しをした。
自分達の事、将来の事、今の不満や大切なモノ達。
そして、少しだけ酔った「ねぇさん」が言ったんだ。

「よし!今日から君は私の弟だ!」

この時から「ねぇさん」は「ねぇさん」になった。

その後、僕達は度々一緒に遊びに出たり、飲みに行ったりした。
大学と高校の差はあったが、お互い学生だったのであまり値の張る場所へは行けなかったが、バイト代が入ると誘ったり誘われたりを楽しんでいた。

「ねぇさん」との衝撃の出逢いからほぼ1年が過ぎようとしていた。
その頃僕は、その素行振りから相方に去られ、その事で事務所から見切りを付けられていて、思う存分ソロで好きなように演っていた。
そんなある日「ねぇさん」がいきなり楽屋に来て言ったんだ。

「決めた事があるの!」

またいたずらなエクボが出来ている。

「あなたを誘惑するのは私の役目!いい⁈」

「・・・はい??!」

なんでも、先日2人で飲みに行った帰り、少し遅くなったのでタクシーを停めて「ねぇさん」を先に見送った。
その時、僕がひどく優しい目をして送ったらしく。

「あなたは、大切な人が出来たら、きっとずっと、あんな目を相手に向けるんだろうなぁーって思ったら、ちょっと悔しくなったの。
だ・か・ら、あなたを誘惑するの!
でも、今じゃないわよ。
もっと素敵な男に仕立ててから!
解った?!」

「・・・・う、ん・・・まぁ・・」

「ねぇさん」はそれだけ告げると、またもや今度はかなりいたずらなエクボを見せて楽屋を出て行った。

同じような光景が1年前・・と考えていて、今度は足の上にギターを落としてしまった。

その後、互いに仕事に就き、大切な人が出来ても僕達の付き合いは続いた。
学生の頃のように頻繁ではなく、電話だけの事も多かったが、お互いのどんな状況の時も、最後は「ダメねぇ〜、もっと色気のあるいい男になりなさい。
私が誘惑するんだからね!シャンとしなさい!」とか「・・うん・・大丈夫だから・・ちゃんと立ち直って、あなたを誘惑するから・・」で締め括られた。
そして、そんなやり取りは「ねぇさん」が結婚しても続いていたんだ。

40代半ば、それまでの人生に一旦幕を引き、素の自分になって1人で僕は生きていた。
電話のコールに出てみると久々の「ねぇさん」の声。

「久し振り!どう?元気にしてる?ちゃんと食べなきゃダメよ。」

「ホント久し振りやね!うん、何とかやってる。
そっちはどうなん?元気?」

「うん・・それがね、私入院しちゃったの。
あ、大した事ないんだけどね。」

「!何⁈ どうしたん⁉︎」

「・・私、ガンになっちゃった。もうすぐ手術なの。」

「・・・・え?!・・これからいく!すぐ行くから!ねぇさん、どこ?どこの病院?」

「ダぁ〜メ、教えてあげない。
あなたが来たって何もして貰う事なんてないわよ。
こうして声が聴ければ、それでいいの。
それに、ガンって言っても軽いやつだから大丈夫。
退院したら連絡するから待ってて。
元気になって、ちゃんとあなたを誘惑しに行くから。
ね、待ってて。」

「・・・解った。だけど、約束やで‼︎
絶対、連絡してや!俺、待ってるから、待ってるからな!」

「・・うん、約束。じゃあね。」

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・通話終了の電話の音が、ひどく不吉で孤独なものに響いていたのを覚えている。

「ねぇさん」からの連絡が来たのは、その数ヶ月後だった。
黒く縁取られた1通の通知、「ねぇさん」が逝ってしまった事を報せる残酷な紙だった。

僕は声をあげて泣く事が出来ない。
それでも、次から次へと流れてくる熱いモノに嗚咽した。
その一粒一粒に「ねぇさん」との想い出が蘇り、悲しい紙に滲んでいった。

「ねぇさん」は芯の強い人だった。
でもあの電話の時、きっと怖かったに違いなかったんだ。
僕は、1度もそばにいてあげられなかった。
もっとも、それを「ねぇさん」が望んだかどうかは別だが。

あれから幾つも年が過ぎ去っていった。

ねぇさん、今年も娘さんから季節の便りが届きます。
「ますます母に似てまいりました。お会いしたいです。」
ねぇさん、僕はまだねぇさんの眠る場所を知らないんだ。
ごめんよ。

ねぇさん、僕はいい男になれたかな。
いつになったら誘惑してくれるのさ?

今年は娘さんに会えるといいな。
そして、2人でねぇさんに会いに行こうか。

「もぉ!あなたはねー!・・」
元気な「ねぇさん」の声、今も僕の胸に響いている。

「あなたを誘惑するのは私の役目」

                             

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