waca-jhi's diary

笑いも涙も浄化には大きい力になるといいます。そしてカルチャーショックは気付きの第一歩、たとえ小さくても感動は行動への第一歩。

仏像 (坂根龍我 作品 紹介№23)

彦根市の漆芸家、坂根さんの作品を楽しみましょう】 
 
 
《 百百のやわ 》 仏像
 
弟子の頃、よく師匠に連れて行ってもらったスナックにYoちゃんはいた。
 
ガッシリとした大柄で、パンチパーマ。向こう傷の顔に金のネックレスとくれば、間違いなく反社会的組織団体の、ご一員かと思われたのだが、話してみるとそうではなかった。
しかし、その生活ぶりはかなり怪しいモノだったが。
 
イブとクリスマスの二日間だけ、店で行うライブを手伝って欲しいと頼まれた事から、僕たちは急速に仲良くなっていった。
 
ライブと言っても、そこはスナック。紫色の照明にムード歌謡中心で、「ロック命!」だった僕にはかなり衝撃的であり、ギターはおろか、ドラム、ケーナ、ボーカルとコキ使われ、Yoちゃんはと言えば、酔っ払って客と楽しんでおり、いったい誰が中心なのか分からないというシロモノであったが、帰りに貰うデッカイ寿司折りと酒に釣られて2日間を乗り切った。
 
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たまたま家が近かったせいもあり、Yoちゃんとはよく二人で飲みにも出かけたのだが、「お前はいつか、ゲージツカのセンセになるんやから、しょうもない事に金使うな。」と言って、いつも僕には全く金を使わせなかった。
 
その店は、まだ若いママが一人で切り盛りしている、カウンターだけの小さなスナックだった。
 
いつも奢られているばかりでは、気兼ねして嫌だ!
酒も旨くないし、友人として対等の話しが出来ない。と不服を訴える僕の言葉に、Yoちゃんは腕を組み、しばらくうつ向いて、今度は上を向いて、何をか考えていたが、やがて「分かった」とつぶやき、「また連絡する」と言って飲み代を置くと、帰って行ってしまった。
 
気まずい一週間程が経った頃、Yoちゃんから連絡があった。
先日のスナックへの誘いだった。
 
仕事を終え行ってみると、果たしてYoちゃんは店にいた。
しかも、何故かカウンターの向こうに、真っ白のシャツを着て満面の笑顔で立っていたのだ。
「おぅ!お前今日からこの店タダやからな。ワシも、タダや。」
 
「・・・は?・え?」
 
訝る僕の目に若いママの姿が映った。
照れたように、シナを作るママに、いくら鈍い僕でも解ってしまった!
 
何とYoちゃんはママとやっちゃったのだ!
 
で、この店にイロとして入り込んでしまったのだ!
僅か一週間のうちに!!
 
「な、エエ解決方法やろ~。これでお前もワシも気兼ねなく飲めるし、お前はゲージツに金使えるっちゅうわけや!」
したり顔で満足そうにウンウンとうなずくYoちゃんと、Yoちゃんにペトっと寄り添うママを前にして、その夜僕はウィスキーのロックを5杯空け、珍しく悪酔いしてしまったのだった。
弟子修行も折り返しに差しかった頃だった。
 
その後僕はYoちゃんからスキューバダイビングを教わる事になった。
練習に行った日の夕方の海辺で、
「内緒やど」と言ってYoちゃんは、海パンの内腿をチラとめくり、自分で彫ったという牡丹の刺青を僕に見せた。
いや、正確に言うと、『牡丹らしき』刺青を僕に見せたのだった。
 
そして困った顔で言った。
「・・あのな、頼みがあんねん。お前、センセになったら、牡丹の絵、描いてくれへんかなぁ。
ワシ、それ元にちゃんと彫師に彫ってもらうし。アカンかなぁ・・・。」
刺青という事に少し躊躇したが、Yoちゃんの顔を見ていたらそんな気持ちなど消えてしまった。
「ええよ、今まだ、修行中やから上手い事描けへんけど、独立したらな。」
「おおっ!約束や!」
Yoちゃんはとても喜んでくれた。
ホントに嬉しそうな顔が夕日に照らされて、Yoちゃんはどこにでもいる素っカタギの青年に見えた。
 
そんなYoちゃんと会えなくなったのは、僕の独立が決まって間もなくの事だった。
 
独立祝いの名目により、件のスナックで、Yoちゃんのおかげのタダ酒を呑み、散々騒いだ後でYoちゃんは僕に言った。
「さ、これでおしまいや。
ワシ、もうお前とは会わん。」
 
「何をしょうもない事言うてんねん!」
 
「いや、ホンマや。 
お前はこれからセンセにならなアカン! ワシみたいなモンが側におったらアカン。 つるんどったらアカンのや!ワシ、足ひっぱるかも知れんしな。
ワシ、生き方変えられへんから。
ワシ、みんな成り損ないやねん。
せやし、もう一遍、男かけたいねん。
これで、ワシらはお・し・ま・いや」
 
その演出、物言い、仕草が全て芝居がかっていてちょっと可笑しかったのだが、Yoちゃんは至極真剣だった。
すぐに又会える、とたかをくくっていたのだが、それっきりYoちゃんはどこにも居なくなってしまった。
 
アパートも引き払い、誰にも行く先は告げられていなかった。
救いは、例のスナックのママも一緒にいなくなってしまった事だった。
二人で何処かに消えたのなら、まだ淋しくはなかっただろう。と勝手に思い込んでいる。
 
思えば僕はいったいどれ位の人に護ってもらって来たのだろう。
助けてもらって来たのだろう。
 
今も、そしてこれからも。
 
Yoちゃん、僕は今なら牡丹をもう描けるよ。
Yoちゃんの言うゲージツカのセンセにはなれないと思うけど。
 
約束はまだ果たされていない。
                             

 坂根さんの作品は目次にも使えるピンタレストに入れてあります。いつでもどれでもお好みの作品を楽しんでください。 

                             

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